相談事例Q&A
ケース1
労働条件が違うと、従業員が監督署に訴えた。社長は、特に労働契約を書面にて締結せず、簡単な口約束で賃金等を決めていた。
数年前までは、口約束だけで簡単に雇っても、こういったトラブルの発生は数少なかったのですが、契約不履行のトラブルは年々増加しています。会社と従業員が円満な労使関係を築くためにも、しっかりとした労働契約書の作成が必要です。
ケース2
従業員のために終業時間後、仕事の考え方などを教えていたところ、翌日、本人から残業手当の請求があった。支払う義務はあるのか。
労働時間に該当するかは、使用者の指揮命令下にあるかどうかで決まります。業務終了後、従業員からの自主的な申し出により行っていたものであれば労働時間に該当しませんが、上司からの業務に関する指導であれば、指揮命令下であるものとして、労働時間に該当する可能性が高いと言えます。
ケース3
休職中の従業員から退職届が郵送され、退職日前に有休取得の申し出も添付されていた。休職中でも有休は、与えなくてはいけないのか。
休職期間は労働義務を免除され、会社も就労を要求していない状況にあります。労務不能の状態にあり休職しているにもかかわらず、有給取得という概念はありえません。労働義務のない所定休日などに有給の権利を行使できないのと同じ考えですから、基本的に休職期間中は、与えなくても違反ではありません。
ケース4
残っている有給休暇をまとめて取得した後、退職したいとの申出がありました。退職するものに有給休暇を与えなければいけないのか。
法律上、応じる必要があります。会社には「時季変更権」がありますが、退職する従業員に変更すべき日が無い場合には、請求通り与えるしかありません。最近は、労基法を認識している人が多くなり、こういった問題は増えています。対応としては「計画的付与」を使って、年末年始や夏季休暇に有給休暇を割り当て計画的に消化させ、引き継ぎに影響を与えないようにしていく方法が一般的です。退職前に有給をすべて取得し、そのまま辞めていくとか、引き継ぎをしないで辞めていくといったことについて、効果的な方法もありますので、お問合せいただければと存じます。
ケース5
先代の社長が作った退職金規定があるのですが、あと数年のうちに、何人かの定年退職者が予定されていますが、その後の原資がありません。どうすればよいのか。
景気の良い時代に作成した就業規則や退職金規程は、従業員に変更の必要性や新制度への移行等を丁寧に説明し、合意を得て変更する必要があります。個別合意を得ないで対応すると、従業員が退職した後に改正前の基準で差額を請求してくる可能性がありますので、少しでも早く取りかかる事をお勧めします。
ケース6
社長と従業員が仕事上の口論になり(以前から態度も悪く)感情のもつれで、「もう、こなくていいよ!」と従業員に言い渡した。翌日、従業員から解雇濫用で訴えてやると電話があった。
解雇に関する法律上の制限があります。就業規則に解雇事由が列挙されているかどうかです。その事由に該当しない解雇は無効になるおそれがあります。そして、「普通解雇」か「懲戒解雇」かを判断しますが、この違いは労働者にとってとても大きな意味をもちますから、慎重に行わなければなりません。後々トラブルに発展することも少なくありません。そのためにも就業規則はしっかり備える必要があります。重大な解雇事由に該当する場合でも慎重に行うべきです。出来れば、就業規則の解雇要件や服務規律の従業員への徹底した周知や直接の指導、教育、さらに解雇回避の努力を前後で行うことが必要です。
ケース7
解雇予告期間と解雇予告手当について教えてください。
解雇しようとする場合には、
少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。例えば7月1日に解雇しようとする場合には、5月31日に解雇の予告をする必要があります。予告は口頭でも有効ですが、
トラブルを防止の為にも解雇事由を説明し、文書を交付してください。尚、
予告期間が10日しかない場合には、不足の20日分の平均賃金を支払う義務があります。
※解雇予告のいらない労働者は次のとおりです。 ・日々雇入れられる者 ・2ヶ月以内の期間を定めて使用される者 ・季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者 ・14日以内の試用期間中の者
ケース8
残業を命じたのだが、全く応じない社員がいます。どうしたら良いのでしょうか。
労働基準法では、時間外労働をさせる場合は、「時間外・休日労働に関する労使協定」(以下「三六協定」という)を締結しなければなりません。就業規則に「業務上必要がある場合には時間外労働を命じることがある」との定めや、三六協定が締結されている場合には、正当な理由(例えば、家族の介護とか育児等の家庭的事情がある場合など)がない限り、原則として残業を拒否することはできません。時間外労働命令に従わないと、労務提供義務に違反することになるからです。 実際に残業命令を拒否した場合は、就業規則には、一般に正当な理由のない残業命令拒否に対しては「業務命令違反」として懲戒処分を課すことが多いようです。 なお、残業命令を拒否した従業員について人事考課でマイナスすることも差し支えありません。
ケース9
2日前に1時間遅刻したので、今日の1時間分の残業代はその2日前の分と相殺し、遅刻控除はせず残業代も支払わなかったのですが、本人から残業は割増になるのでおかしいと申し出があった。
同日での相殺なら問題ありませんが、この場合就労日が異なる為に、遅刻控除と残業代の支払いは発生します。しかし、当日の相殺でも、結果的に法定労働時間を超えてしまったリ、深夜労働時間に及ぶ場合(1日の労働時間が8時間以内でも)は割増し賃金が発生します。
尚、当日の相殺を行う場合は、遅刻しても残業すればいいというような、本人任せの労務管理になる恐れもあるので、業務などにあった十分な検討は必要です。
ケース10
従業員に出張命令を出しました。実際に労務についた労働時間の賃金を支払いましたが、本人より自宅から主張先までの時間は、通常の勤務より朝も早く帰りも遅いので、労働時間ではないかと、不満をぶつけてきました。
出張というと移動時間も長いので労働時間ととらえる従業員も多いのですが、通常の通勤時間と同じように労働時間に含めなくても違反ではありません。ただし、会社の荷物を運んだり(仕事上の資料や書類は含みません)、出発場所が自宅ではなく会社だった場合は労働時間になります。しかし、拘束時間が長くなることが多いので出張を避ける従業員や不満がでやすいので、出張手当等を支給して調整するのが望ましいです。
ケース11
同業種への再就職を禁止したいのですが、どうしたら良いか。
企業秘密の漏洩を防止するために、退職後の競業避止義務(退職後一定期間は同業他社に就職しないという契約)を課す場合もあります。ただし、これらの義務を課しても、求人募集は経験者優遇が多い。労働者が同業種に再就職を行うことも当然にしておこり得ます。同業種への転職を禁止すれば、再就職の幅も狭く、本人は再就職できず、生活を脅かされることになります。また、労働者には、職業選択の自由があります。裁判判例では、退職後の競業制限は「合理的な範囲」であれば有効とされています。
- 禁止期間
- 場所的範囲
- 対象職種
- 代償の有無
これらを総合的に判断します。
何年間も同業者には就職できないという競業禁止期間が、あまりに長期にわたる場合は、公序良俗に違反し、無効になることもあります。
会社に損害を与えた時は、損害賠償を労働者に請求できるので、誓約書等を上手に交わすことが望ましいです。
ケース12
「販売業務」として採用した者を「経理業務」に変更したいのですが、本人から『採用条件と違うので』と拒否されました。職務の変更は無効なのでしょうか。
就業規則に「業務の必要により、職務の変更、勤務場所への変更を命じることがある」と規定することが必要です。ですから、正当が理由なく労働者が拒否することは出来ません。ただし、担当業務を限定して労働契約が行われた場合は、これに拘束されることになり、簡単に業務の変更はできません。つまり、限定した労働契約の場合は、使用者が業務の変更を労働者に申し入れ労働者がこれに同意したときだけ、変更が可能となります。十分な理解と説明を行うことが重要です。
ケース13
従業員から、退職金の支払いを請求されました。当社では制度は特に設けていないのですが法律ではどう決められているのか。
法律で支払いが義務付けられてはいません。支給規定も就業規則等で自由に規定できます。退職金規程のあるほとんどの企業で、人員整理、希望退職者の応募といった「会社都合」の理由で退職する場合と、本人の責めによる「懲戒解雇」そして「自己都合」と退職理由によって退職金を変化させています。だだし、退職金規程がある場合は、簡単になくすことは出来ません。
ケース14
「仕事さえすれば」と挨拶もしない派遣労働者がいます。解雇できますか。
派遣労働者の雇い主は派遣元であるため、派遣労働者に対して、労働者の身分に属するものは派遣元の就業規則が適用されます。ですから、懲戒処分は、労働契約のある派遣元が行うことになります。ただ、派遣先は、企業の秩序を乱したりした場合は、これを注意したり労働者の交替を派遣元に要求することはできます。注意しても駄目な場合は、派遣先責任者が派遣元責任者に対して改善を求めることになります。雇用の関係は、派遣元の雇用主が対処しなくてはいけませんから、派遣労働者と派遣先のトラブルがないよう、事前に防止策を検討する必要があります。
≪コロナ編≫
Q1
従業員から「最近、微熱と咳が続いている」という申し出がありました。この従業員に対して、自宅待機を命じても問題ないですか。自宅待機を命じる場合には、賃金を支払わなければなりませんか。また、従業員が同居する家族に感染者が出た場合にはどうなりますか。
自宅待機を命じることに問題はありません。賃金については、高熱等で普段通りの仕事ができない場合は不要です。ただし、微熱や軽い咳等の症状で仕事ができる状態である場合には、休業手当(平均賃金の6割以上)の支払いが必要となります。同居する家族に感染者が出た場合については、濃厚接触者として保健所から自宅待機の要請を受けることになります。この際の休業は、会社の事情に起因したものではないため、賃金支払いの義務は生じません
Q2
店舗従業員から「感染が怖いので休業させて欲しい」と言われましたが、どのように対応すればよいですか
店舗従業員に出勤命令を出す場合は、まず、店舗の感染防止対策を講ずることが必要です。感染防止対策を充実させることなどによって従業員の不安を少しでも和らげて出勤に協力してもらえるように話し合いをしましょう。それでも従業員が休業を希望する場合には、業務命令として出勤を命じることもできますが、無理な出勤の強制は避けた方がよいでしょう。なお、従業員が希望して休業した場合には、有給休暇を取得する場合を除き、欠勤扱いとなるので賃金を支払う必要はありません。
Q3
営業自粛要請の対象外事業で、新型コロナウイルス対応のための休業を考えています。休業を拒否する従業員への対応はどのようにすれば良いですか
休業はあくまで会社の判断で行うものであるため、拒否する従業員に対して休業を命じることは可能です。休業命令後も出社し続け、注意指導しても改めない場合は懲戒処分も検討します。ただし、一部の従業員だけ休業を行う場合、人選の合理性が問題となることがある為、対応について注意が必要です。
≪メンタルヘルス編≫
Q1
従業員がメンタルヘルス不調の診断書を持ってきました。働かせることは可能でしょうか
メンタル不調の従業員を無理に働かせると、症状が悪化し、さらに悪い事態を引き起こし、会社がその責任を負う可能性もあります。まずは本人と面談した上で、不調の原因となる状況や事実関係等を聞き取り、それを基に必要な周辺調査を踏まえた上で、「勤務を続けながら治療していくのか」もしくは「就業規則に基づく休職をさせるのか」総合的な判断となります。
Q2
従業員がメンタルヘルス不調で休職しています。定期的な病状報告を求めたいのですが問題ないでしょうか。その場合にどんな事に注意すれば良いでしょうか
本人の状況・体調を確認することで、復職のタイミングを図る必要があることから、「休みの間も定期的な連絡を取る」ことは重要です。その際には、休職している理由を証明するために、主治医が発行した診断書を受領する必要があります。なお、頻度としては月1回、診断書の有効期限を切らさないことが重要です。
Q3
メンタルヘルス不調で休職している職員から「復職可能」の診断者が出された場合、そのまま復職させて問題ないでしょうか
職員から「復職可能」の診断書が出された場合であっても、会社としては復職は難しいのではと考えるケースもあるかもしれません。「日常生活が送れるようになった=復職」ではなく、基本的には通常の労働を通常通り行えるほどに回復した、もしくは、まもなくそのように回復する見込みがある場合に復職できるか否かを会社が総合的に判断します。あくまでも、復職の最終判断を行うのは会社です。復職後に再度不調になり再休職等にならないよう、職員と十分にコミュニケ―ションをとった上で判断を行いましょう。
≪パワハラ編≫
Q1
従業員からパワハラの訴えがありました。どのような手順で対応すればよいでしょうか
ハラスメントは客観的な証拠で認定されます。先入観を持たず、公平・迅速で冷静な対応を心掛けましょう。被害者から話を聞いた後は、加害者に話が漏れないように注意しながら、周辺の従業員から事実関係の聞き取り調査を行います。最後に加害者から話を聞いた上で、就業規則に基づき会社が処分や異動等を判断しましょう。手順や状況確認が正確でないと二次被害を引き起こす懸念が生じますので専門家に相談してください